夜回り先生 水谷 修
公式ブログ

Osamu Mizutani Official BLOG

子どもたちへ No.6

   子どもたち、このところ水谷は、ずっと同じネクタイをしています。綺麗な水色にピンクのストライプのネクタイです。ちょっと私の年には派手で、恥ずかしいのですが、いつもつけています。そして、時々それを触ってはにやにやしています。

 

 今から三年前です。私は、東京の風俗街で十八歳の一人の少女と出会いました。朝四時頃、疲れた顔で風俗店から出てきました。彼女の顔にはくっきりと覚せい剤乱用の跡がありました。私は、彼女を呼び止めそして近くのファミリーレストランで話しました。彼女は私のことを、「夜回り先生」だと知っていました。私にメールで相談に乗っていた少女でした。

 

   彼女は、小学校時代から親からの虐待、学校でのいじめ、中学から夜の町に入った子でした。中学二年で暴力団関係者と同棲、売春をさせられ、そして覚せい剤も覚えました。十六歳からは、風俗街に売られ、稼いだお金をすべて覚せい剤代として彼に奪われ、生きてきました。

 

 彼女は、自暴自棄になっていました。「先生、もう私のからだは汚れてる。明日なんかこない。どうなってもいいんだ」そういいました。私は言いました。「でも君は、メールで私に助けを求めたね。明日、来るよ。作ろう。ついてるよ。君の目、とってもきれいだよ。きっとこころも。ついておいで」私は、そのまま、彼女を、私の関係する施設に預けました。彼女の親に対しては、私は何もできませんでしたが、彼女を利用した男と、そして風俗店は、警察の力を借りて摘発しました。

 

 彼女は、長年の覚せい剤乱用から来る、さまざまな離脱症状や再使用への渇望、フラッシュバックに苦しみながらも、施設で必死に生きました。「先生、今日は麻婆豆腐作ったよ。みんなおいしいって食べてくれた。明日は、カレー作るんだ。先生、いつ食べに来てくれる」うれしい電話やメールがいっぱい届きました。そして、ついに今年の四月から、彼女は、老人施設の調理補助員として就職しました。いつかは、本当の調理師になるんだと、通信制の高校にも入学しました。

 

   私が、このところ使っているネクタイは、彼女が初めてもらった二万円のボーナスで、プレゼントしてくれたものです。彼女の瞳のように明るいネクタイです。

 

 子どもたち、過去や今を変えることはできません。いくら苦しんでも無駄です。過ぎ去ったものは取り戻せません。でも、これから来る明日は、いくらでも作れます。今を、明日のために、生きてみませんか。必ず明日は来ます。

子どもたちへ No.5

 子どもたち、夜眠れないという経験をしたことがありますか。人は、こころとからだのバランスが狂うと夜眠れなくなります。特に、こころが疲れ切っているのにからだが疲れていないと、いらいらがたまり、そして夜眠れなくなります。

 

 君たちが生活する今の社会は、ものすごいストレス社会です。道を歩くことにも、常に車への注意が必要ですし、家庭や学校でも、君たちを追い立て傷つける多くのことばが飛び交っています。その一方で、こどもたちがからだをあまり動かすことのない社会になっています。多くの子どもたちが、自然の中を走り回ったり、からだを使って何かをすることより、ゲームや携帯電話、あるいはコンピューターの前で日々を過ごしています。その結果、心身のアンバランスが生まれ、夜眠れない状態になってしまいます。

 

   これは、君たちのこころにとって、とても危険なことです。夜眠れないために、今度は、昼動くことががつらくなり、ひどい場合には、朝起きることもできなくなり、生活リズムが完全に狂ってしまいます。そして、いらいらがつのり、誰かにぶつけてしまったり、あるいは自分を傷つけたりしてしまいます。今、日本では、この「夜眠れない子どもたち」が、どんどん増えていっています。

 

 子どもたち、確かにこのような社会を作ってしまったのは、私たち大人です。本当は、君たちが、昼間ゆとりを持ち、楽しくそして心地よく過ごすことのできる社会を、私たち大人は作らなくてはなりません。でも、残念ながら、今の日本は、君たち子どもたちにとってだけではなく、私たち大人にとっても、ストレスだらけの社会になってしまっています。

 

   私には、この社会を変える力はありません。でも、これを読んでいる君たちを変えることはできます。何か夜眠れない、あるいはこころにつらさを感じたときは、からだを動かしてみてください。できれば、昼間に散歩、美しい花や自然に触れ、太陽にたくさんあたってください。家の近くのグランドをただひたすら疲れ切るまで走る、これもいいいでしょう。ともかくからだを疲れさせてください。夜辛くなったときは、腕立て伏せ、腹筋、何でも良いんです。からだを動かしましょう。これで必ず楽になります。

 

 今日本で、多くの大人たちが、子どもたちまでもが、精神科の睡眠薬などの薬の力を借りて、夜眠ろうとしています。確かに、一時的には薬の力を借りることも大切ですが、永遠に薬のお世話になることはできません。一番の解決は、きちんと心身の疲労のバランスをとること、規則正しい生活を日々おくることです。

子どもたちへ No.4

子どもたち、水谷は君たちと出会っただけで、だいたい君たちのこころやからだの様子を想像できます。もう六十万人近いさまざまな問題を抱えた子どもたちと関わってきましたから。

 

 覚せい剤やシンナーの乱用を止められなくて苦しんでいる子どもたちは、簡単にわかります。薬物乱用者特有の目と歯や歯ぐきの様子でわかります。すぐに名刺を渡し、「連絡しなさい。そのまま乱用を続ければ死ぬよ」と声をかけます。みんなびっくりしています。

 

 親からの虐待や学校でのいじめで苦しむ子どもたちも、すぐにわかります。目から輝きが消え、そしてきちんと私の目を見て握手することができません。後ろ姿も背が丸くなり、そして力が抜けています。すぐに名刺を渡し、「つらかったね。相談してね。いっしょに明日を作ろうね」と声をかけます。ほとんどの子が泣きます。

 

 いじめをしたり、非行や犯罪を犯している子どもたちもすぐにわかります。目に落ち着きがなく、おどおどしていますから。変に突っ張っていても、目には哀しさが見えますから。すぐに名刺を渡し、「昼の世界に戻ろう。戻れるよ。連絡しなさい」と声をかけます。

 

 不登校やひきこもりの子どもたちも、すぐにわかります。いつも力を入れて歩いたり、動いたりしていませんから、歩く姿もからだも丸くなり、力が抜けています。目も、何かをいつも気をつけてみていませんから、力が抜けています。すぐに名刺を渡し、「動こう。いっぱいからだ動かそう。そして、人のために何かしてみようね」と声をかけます。みんな下を向いてもじもじしています。

 

 子どもたち、今の君たちの姿はどうですか。鏡に自分の姿を写してみてください。目、輝いていますか。からだに力が入っていますか。手をぎゅっと力を入れて握ることができますか。子どもたち、すぐに外に出てみてください。大きく手を振って、顔をあげて、しっかり歩くことできますか。もし、どれもできなかったら、それは、君たちが何かに苦しみ悩んでいるからです。

 

その悩みや苦しみをすぐに取り去ることは、君たちではできません。お願いです。まずは、服装をきちんとした、そして明るい服に替え、外に出て、大きく手を振り、大きく息を吸い、散歩してみましょう。美しい花や美しい木々をゆっくり眺めましょう。家に戻ったら、体操です。からだをうんと動かしてごらんなさい。それだけで、必ず少し楽になります。そしたら、今の君たちの悩みやつらさを、回りの人たちにきちんと相手の目を見て伝えてごらんなさい。きっと解決します。

子どもたちへ No.3

子どもたち、人が一番幸せなことは何だと思いますか。お金持ちになること、権力や地位を手に入れること、有名になりみんなにちやほやされること・・・。水谷は、どれも違うと思います。水谷にとって、一番幸せなことは、だれかに必要とされること。そして、一生懸命にその人のために、その子どものために動いて何かをして、「ありがとう」って感謝されることです。

 

私が数年前から関わってきた少女がいます。父親は、政治家、母親は一流企業の社長の娘。姉は、有名進学校から有名大学へ、絵に描いたような家庭で育ちました。いつも姉と比べられ、いつも叱られ続け、そして、中学から夜の世界に入りました。少女は、夜の世界で、自分をいたわってくれる父親を捜しました。中年の男たちと「援助交際」です。そして、さらに傷ついていきました。毎晩のように、自らのからだをカミソリで傷つけていました。そんな中、私と知り合いました。私への最初の相談メールは、「死にたい」でした。

 

彼女は、私の薦めで、家を出て、生活保護を受けながら、自立を目指しました。今は、老人施設で介護の仕事をしています。

 

彼女から、実は今電話が来ました。「先生、今日私の担当しているおばあちゃんが亡くなりました。家族のいないおばあちゃんだったから、私が病院で看取りました。おばあちゃんね、最後に私の手を握りしめて、ありがとうって言って旅立っていった。先生、生きててよかった。私、霊安室で一晩中おばあちゃんについててあげた。霊安室の窓少し開けてあげたんだよ。おばあちゃんの魂が天国に行けるように」とても、うれしい電話でした。

 

子どもたち、確かに今の社会では、お金を持っていればいろいろなことができます。権力や地位があれば、人は大切にしてくれます。でも、お金は使えばなくなります。権力や地位は、何か失敗をして失えば、それでおしまいです。お金や権力、地位で作った人間関係も、すべて消えてしまいます。むなしいものです。

 

子どもたち、特に苦しんでいる子どもたち、明日のことや過去のことを思い悩むこと止めませんか。過去は変えることができないし、悩んだところで、明日は作ることはできません。まずは今、回りに優しさ配りませんか。人のために何かしてみませんか。必ず返ってくる「ありがとう」の一言が、今君が生きていることの意味を、そして明日を生きていく力を君にもたらします。悩み苦しむのは、答えが出ないから。それなら、まず今動きましょう。誰かを幸せにするために。

子どもたちへ No.2

   子どもたち、青空に星を見たことありますか。私は、何度もあります。君たちが、夜の空に見る満天の星の輝きは、実は、昼間も私たちの頭上でその輝きを私たちに向けてずっと発し続けています。でも、太陽の光が強すぎて、その強さに勝てず、そっと青空の中に沈み込んでいるだけなんです。気づいていましたか。

 

同じように、子どもたち、君たちを、いつも無数の優しさや、思いやりが、君たちを包んでいます。でも、君たちは、目の前に現れる、嫌なことや哀しいことに気を取られ、そして、苦しみ悩み、君たちに向けられた優しさや思いやりから目をそらしてしまっています。そのことに気づいていますか。

 

 子どもたち、私たち人間はとってみ不完全な存在です。たとえば、ものを見るとき、視野にあるすべてを同時にきちんと見ることはできません。何か一つのものに視線を向けると、その周辺はぼけて見えなくなってしまいます。試してごらんなさい。だから、私たちは、常に視線を右に左に、また上下に動かし、回り全体をきちんと見ています。これは、ものを考えることにも同じようにいえます。

 

あることを考え、悩みはじめると、他のことが考えられなくなります。その悩みや苦しみに、こころや頭のすべてを捕らえられてしまいます。そしてさらに自分を追い込んでしまいます。多くの大人は、それまでの人生の経験から、それをきちんと切り替えることができます。何かを見ても、まずはそれを見つめ、でも疑い、そして回りを見回し、そして確認する。そして、過去の経験と照らし合わせ、自分なりに納得する。

 

 子どもたち、君たちには、さまざまな経験が少なすぎます。だからこそ、だれかが体調が悪く君の話を聞かないと、自分はきっと嫌われたと哀しみにつぶれ、先生が、忙しさの中で、君にきちんと対応しないと、自分は駄目な子だと自分を責めます。本当は、子どもたち、君たちに罪はありません。大人たちが、回りが、君たちが、ものすごく繊細で弱い存在であることをきちんとわかり、君たちを大切にしなくてはならないんです。でも、残念ながら、親や先生、大人たちには、今その余裕がありません。大人たちも、今苦しんでいます。

 

 子どもたち、つらいときは逃げていいんです。家で親たちがいらいらしていたら、そっと部屋にこもっていいんです。学校で嫌なことがあったら、行かなくてもいいんです。でも、こころは閉ざさないでください。泣いていい、叫んでいい、そのつらさをきちんと回りに伝えてください。できるだけたくさんの大人に。必ず救いは来ます。