夜回り先生 水谷 修
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Osamu Mizutani Official BLOG

子どもたちへ No.15

 子どもたち、今回は少し学問的なことを書いてみます。君たちは、「懐疑」ということばを知っていますか。簡単に言えば、疑うことです。それでは、その反対のことばは。信じること、つまり「信頼」です。

 

 この二つは、人類の歴史の中で、絡み合ってきました。「懐疑」から、多くの争いや戦いが、喧嘩や殺人が起きましたし、「信頼」から、平和や愛が産まれました。

 

 こどもたち、このように書くと、「懐疑」は悪で、「信頼」は、善、人のこころから「懐疑」を捨てれば、世界は平和になるし、人と人との間も、優しい美しいものになる、そう思うと思います。私もそのような社会になればいいなと思います。でも、そうはいかないのです。

 

 実は、「懐疑」は、人類の進歩や文明、科学や学問を作ってきたものです。君たちは、ニュートンを知っていますか。「万有引力の法則」を発見したイギリスの科学者です。彼は、リンゴが木から落ちるのを見て、地球の引力の存在を確信しました。彼が、「懐疑」のこころを持たなかったら、すなわち「なぜリンゴは地球にむけて落ちるのか」と疑い考えることをしなかったら、現在の天文学や物理学などの根本原理となっている「万有引力の法則」は、発見されませんでした。

 

 子どもたち、人類は、この「懐疑」と「信頼」をバランスよく使いこなしながら、歴史を刻んできました。疑うことの中で、学問や科学を進歩させ、また信じ合うことの中で、愛や友情、平和や未来を作ってきました。

 

 でも、今、このバランスが大きく崩れてきていると、私は考えています。他の国を信じたり、他人を信じることは、愚かなことで、必ず裏切られる。だから、信じ合うこころを捨てて、常に回りを疑い、用心深くこころを閉ざして生きることが賢い、こんな考えが、世界中を、それどころか、君たちのこころの中にまで、広がっている気がします。哀しいことです。

 

 子どもたち、確かに常に回りを疑って生きていれば、泥棒に遭うこともないでしょうし、おそわれることも、裏切られることもないでしょう。でも、大切なものを失いませんか。友情と愛という、人として生きていく上で最も大切なものを。

 

 子どもたち、何もすべてを信じろとはいいません。確かににそれは、危険です。でも、君たちが日々触れ合う人のこころは信じてみませんか。そして、君自身のこころを開いて、想いを丁寧に伝えてみませんか。私は、68年間、そうして生きてきました。確かに裏切られたこともたくさんあります。でも、かけがえのない家族や友人、生徒たちをたくさん手に入れました。友情と愛、そして幸せを手に入れました。