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そもそも、刑法上の成年とは、1907年の刑法から始まり、14歳とされました。14歳未満の者の行為は罰しないという刑法41条の規定が刑事未成年の規定と呼ばれていることからも明らかです。
なぜ、1907年に刑法上の成年が14歳に定められたかについては、当時14歳のなったほとんどの人たちが、親元から独立し就労していたからだといわれています。しかし、10代の犯罪を犯した者たちを、大人と同様、単に刑法によって処罰することでは、環境的にも不安定な若年層による非行や犯罪を減らすことができないという理由で、1922年には、旧少年法が制定され、それが現行少年法では、20歳未満に引き上げられました。その流れの中で、少年に対しては、刑法による罰則重視の姿勢から、その家庭環境や生育環境に配慮し、また介入し、その少年の更生を図るという、保護矯正主義を取ることが現在に至るまで続いてきました。これは、世界的にも評価されています。
しかし、現在、民法の成年年齢が20歳から18歳へと改正されることに対応して、少年法の成人年齢についても18歳へと改正しようとする動きがあります。このことについての問題点を以下に明記いたします。
- 適正手続保障について
現行の少年法の解釈によれば、20歳間近の少年に非行、犯罪の疑いがかかった場合、非行や犯罪事実の否定から捜査や手続きが長引き、その間に20歳になった場合、成人として刑事裁判にかけられ裁かれることとなります。そのため、やっていない事件に対しても嘘の自白をするケースがあります。また、そのような誘導を警察から受けるケースもあります。少年法の下での処遇を受け、公開の刑事裁判や刑罰が避けられるからです。現行の少年法には、20歳間近の少年に対する適正手続保障の制度が欠如しております。この制度が不備のまま、成人年齢を引き下げれば、同じ問題が、さらに未熟な18歳の少年たちに降りかかってきます。これが、冤罪事件の増加につながると私は考えています。(熊本大学教授 岡田行雄氏のご意見より)
- 少年法における対象年齢を18歳に下げる場合の問題点
- 現行の18歳、19歳を未成年(少年)と見なす少年法の中では、殺人などの凶悪犯罪の場合は、家庭裁判所から地方裁判所に送致され、成人と同様の処罰を受けるケースはあるが、ほとんどの犯罪の場合は、少年に対する矯正主義の中で、まずは、鑑別所に送られ、3から4週間、家庭裁判所の調査官による家庭環境や生育環境などの調査を下に、学校や児童相談所とも相談の上で、児童自立支援施設や少年院などへの送致も試験観察や保護観察処分などを通し、その少年の更生を図っていく。しかし、18歳、19歳が成年とされれば、そのような矯正教育を受ける機会を失い、そのまま警察から検察に送致されることとなるが、窃盗などの微罪の場合は、その7割弱が起訴猶予、さらに刑事事件として立件された場合でも、その多くは執行猶予という形で、社会に戻ることになる。少年犯罪の原因の背景には、未成熟な少年の場合、その原因には、多く家庭環境や生育環境があり、それを変えていかない限りその少年の更生の手助けにはならないという観点から見れば、多くの少年がその機会を奪われることとなり、極論だが、もとの劣悪な環境に戻され再犯を繰り返すことになりかねません。
- 戦後いつの時代でも、少年による犯罪や非行のピークは、14歳から16歳です。17歳になると犯罪を犯す少年は急激に減少しています。それでも、18歳、19歳で犯罪を犯す少年は、生育状況や家庭環境等に問題性を持つ少年ということができます。
2017年の司法統計年表によれば、家庭裁判所で実質審理される、18歳、19歳の比率は全体の31パーセントです。
| 総数 | 刑事処分相当 | 少年院送致 | 保護観察 | 不処分 | 保護的措置 | 不開始 | 不開始中 |
| 7167 | 103 | 855 | 2148 | 1381 | 1229 | 2680 | 2232 |
| 1.44% | 11.93% | 30.00% | 19.27% | 17.15% | 37.39% | 31.42% |
(行為時18、19歳の少年の処分、2017年司法統計年報より)
現行の少年法の下では、家庭裁判所から地方裁判所へと逆送されるのは、わずか1.44%の少年です。それが、もし少年法が改正されれば、少なく見ても、13%、保護観察のケースまで含めて多く見れば、40%を越える少年たちが、刑法で裁かれることとなります。2017年の少年矯正統計年報によれば、2017年における少年院収容者数は2147人であり、そのうち、18歳、19歳の少年は、1083人、つまり少年院収容者の半数が、18歳、19歳の少年です。また、少年院出院者の再入院、刑事施設入所率は、2018年の犯罪白書によれば、2年以内で、11.5%、5年以内で21.6%です。この数値は、少年院による矯正処遇効果の有効性を示すものだと私は考えます。
- 現在まで、少年院では、いずれの施設でも、職業訓練をその教育の柱として少年の矯正、自立を目指してきました。しかし、その主軸となる半数にも及ぶ18歳、19歳の院生がいなくなることは、少年院そのもののあり方や運営に大きな影響を与えます。また、このごろは、一部の少年院では、高卒認定試験を取り入れる試みも始まっているが、その存続も不確定となってしまいます。今、報道でも多くの人たちから認知されつつある、法務省矯正局と心ある大阪の企業が取り組んでいる「職親制度」による出院後の生活や仕事を確保し、院生たちの自立と更生をめざす試みにも多大な負の影響を与えるでしょう。
- 現行の少年法の下では、未成年が犯罪を犯した場合、その氏名についてはまず報道されることはありません。しかし、改正されれば、氏名が公表されることとなります。仮に、高校三年生で18歳の少年が、犯罪を犯した場合、名前が公開されることにより、どんな微罪であったとしても、高校を辞めざるを得なくなり、またその後の人生における就職や結婚などの社会生活に大きな不利益を作ることとなります。また、高校3年生3人(一人は18歳、二人は17歳)が同じ犯罪を犯した場合、その18歳の一人の高校生については、氏名が公開され、あとの二人については非公開となり、学校での処分やその後の人生について、不平等を作ることとなってしまいます。
- 高等学校の現場を見ても、現行の少年法の下で犯罪を犯した生徒について、多くの場合は、自主退学または、除籍処分を科している。自主退学の場合は、それまでの学年で取得した単位については認められるが、除籍となれば、在籍した事実そのものが白紙とされる。再度高等学校で学びたい場合、入学試験を受けて一学年からやり直すこととなる。これまでは、それぞれのケースで、復学を認めたり、あるいは自主退学を認めてきたが、18歳以上の生徒が成年として扱われるようになった場合、どのような処分等の対処をするのか。それについて、現場では未だ全く検討されていない。相当な混乱と子どもたちへの不利益が生じることは明らかでしょう。
