水谷修の論文

Paper

青少年の市販薬乱用問題

著者:水谷 修

OSAMU MIZUTANI

▼以下の論文を引用又は使用する際には、水谷までメールでご連絡ください。

  • その現状

 新宿のトーヨコ、名古屋の錦、大阪のグリ下、福岡の警固裏など、全国の大都市の一部エリアに、家出青少年(特に女子)、家庭に問題を抱える青少年、精神的な問題を抱える青少年が集まり、夜の町の成人からの性的被害、売春などの違法行為を繰り返していることが、このところ大きな問題となっています。

 私も、昨年夏より、これらの地域を夜回りし、その状況把握と、保護を求める青少年の施設への保護活動をしてきました。彼らに共通していることは、家庭や学校などに居場所がなく孤立し、そのような中で、SNSを通して同じような状況の仲間たちとネットワークができ、その仲間たちとの直接の交流場所として、これらの地域に集まっていることでした。

 また、SNSでの情報交換の中で、一部の市販薬を過剰摂取(OD)することが、一時的にでも現在の孤立感や絶望感から逃れることができる手段となると考え、女子で関わったほぼ全員が、常習的にODを繰り返していました。ODされる市販薬は、「パブロン」(第二類)、「ルル」(第二類)、「メジコン」(第二類)、「カロナール」(第二類)、「ウット」(第二類)、「エスタロンモカ」(第三類)など多岐にわたり、ネット上では、それらの薬の使用法や効果が若者たちによって公開されています。また、これらを複数の種類同時に乱用することによる効果まで、開示したものもあり、それを繰り返す青少年も少なくありません。

 私は、水谷青少年問題研究所を開設し、すでに20年にわたり、様々な子どもたちからの相談に答えてきていますが、コロナ以降、親や本人からの、市販薬乱用についての相談が、加速度的に増えています。確実に、中高校生や十代の青少年の間に、市販薬乱用が広がってきていると実感しています。その一方で、かつて主流だった処方薬のODは、急減しています。その背景にあるのは、処方薬局間の投薬情報の共有化によって、偽造処方箋や医者回りにより処方薬をまとめて手に入れることができなくなっていることがあるでしょう。

  また、ODに使用する市販薬の入手法は、ほとんどの乱用者の場合、ネットによる通販が主になっています。この背景には、かつてはクレジットカードでの決済が中心だったネット通販が、電子マネーによる支払いができるようになったため、クレジットカードを持っていない青少年も容易に通販によって買うことができるようになったことがあると考えます。彼らが乱用する市販薬のほとんどが、「第二類」に分類され、ネットで通信販売されていることもその原因の一つと考えます。

 関わってきた青少年本人や親たちの市販薬の乱用の危険性に対する認識は薄く、相談に来る時点では、すでに依存症となり、一回に数十錠の市販薬の乱用を定期的に繰り返し、その結果、意識不明や行動障がい、発語障がいなどが出て、事の重大さに気づき、はじめて相談してきます。使用している市販薬によって症状は様々ですが、退薬期に以上な倦怠感や精神的に不安定な状況、以上な絶望感、希死願望などの症状が比較的長く続きます。

  • その背景

市販薬の乱用を繰り返す青少年に共通しているのは、「孤立」です。家庭や学校に居場所や理解者、仲間を作ることができず、SNSやネットを通じて同じような問題を抱える青少年と繋がり、そして「共依存」していく。まさに、このネットワークの中に、市販薬乱用が、救いの一つの手段として入り込んでしまっています。

特に、新型コロナウィルスの感染拡大の中で、三年前にリモート学習による在宅授業の中で、健全な直接の人間関係を形成することが困難になったことも、乱用が拡大した一因と考えます。

また、表には出てきませんが、ネットの情報から興味本位で市販薬乱用に入り、依存症となり苦しんでいる青少年も増えています。このケースは、家出や深夜徘徊をすることもないため、親も把握することが困難です。

しかも、中学校や高等学校での「薬物乱用防止教育」の中には、いまだ市販薬の乱用は想定されていず、それがどれほど危険な行為なのかの認識と知識がありません。覚せい剤や大麻などの違法薬物とは異なり、一般に市販されている薬なのだから、乱用することは、違法行為ではないし、多少乱用したところで、体や脳、精神にたいした影響はないだろうと考えている青少年がほとんどです。

私は、すでに三十年以上、日本各地の小、中、高校で、薬物乱用防止教室を行ってきましたが、市販薬については、その入手の容易性と、その危険性を語ることが、かえって興味を持たせ乱用のきっかけとなることを怖れ、あえて話をしてきませんでした。その隙を突かれてしまいました。反省以外の何もありません。

  • 対策

まず、速やかに行うべき事は、全国の小、中、高等学校において、すでに配置されている学校薬剤師と養護教諭、保健体育教諭、生徒指導担当教諭が連携し、児童生徒のみならず保護者に対しても、市販薬乱用の危険性をきちんと指導していくことだと考えます。また、その教育のために、厚生労働省は文部科学省と協力の上、危険な市販薬名、その体や頭、精神への影響などについて、指導用のテキストを作り、配布していくべきです。また、同時に、関係教員に対する市販薬乱用についての研修も適切に行うべきです。

保護者や一般市民に対しては、全国の保健所を起点としてこれらの市販薬乱用の危険性を広く伝えていただきたいと考えます。

次に、厚生労働省は、すでに当然認知されていると考えますが、乱用対象となる市販薬について、調査、把握し、それらの市販薬の「第一類」への移行とともに、ネットでの販売について規制をかけるべきだと考えます。高齢者や地方在住者、薬局の空白地域の方々には、多大の迷惑をかけますが、青少年を守るためには、現状では仕方がないと考えます。また、市販薬乱用に対する親や本人からの相談窓口を、厚生労働省の指導の下、各都道府県及び政令指定都市に設置し、医師や保健師、臨床心理士等が、その相談に対応できる体制をつくるべきです。将来的には、全国の保健所に設置していくべきです。

次に、警察当局及び法務省へのお願いです。保護や補導、逮捕した青少年が、市販薬を乱用している場合は、乱用の期間や乱用している市販薬名、その期間、入手経路等をきちんと聞き取りして、そして、もしも他者からの譲渡や販売があった場合は、刑事事件としてその譲渡元や販売元を立件していただきたいと考えます。

また、未成年の問題行動については、現行法制では、「非行」、「虞犯」、「触法」、「犯罪」と大きく四つに分類されていますが、市販薬乱用については、ただ単に不適切な行為として扱われているだけで、それに対する何の対処や指導も為されていません。私は、市販薬乱用に、家出や深夜徘徊による補導が伴っている場合は、ぜひ「虞犯」として処遇してほしいと考えます。そして、必ず児童相談所に通報し連携し、事情によっては家庭裁判所とも連携することができます。そうすれば、市販薬乱用やその他の行為の背景にある家庭環境や学校環境に対する調査や積極的な介入を行い、これらの問題の原因を取り除くことができる可能性が生まれます。

  • 追記

 今回の青少年による市販薬乱用の問題からは離れますが、一点提言させていただきます。

 青少年が乱用を繰り返す市販薬には、「エフェドリン」、「コデイン」、「アセトアミノフェン」などの麻薬成分が含まれています。これらの薬のほとんどが、「風邪薬」、「咳止め薬」、「鎮痛剤」、「睡眠導入剤」です。これらの薬を、指定通りしようしても、麻薬成分が含まれている以上、飲酒と同様、その使用者の判断力や反射機能などに影響を与えます。ある有名芸能人が、「睡眠導入剤」を使用して車を運転し事故を起こしたことは、みなさんの記憶の中にあると思います。それにもかかわらず、これらの薬を使用しての運転などには、きちんとした禁止要項や罰が決められていません。

 私は、阪急電鉄で安全指導教育を行っていますが、すでに阪急電鉄では、車輌運転手に対して、飲酒のチェックのみならず、これらの薬の使用についても確認を始め、それらの使用がある場合は、お客様の命を預かる運転業務に就かせないという方向で検討が始まっています。

 アメリカやヨーロッパ各国では、ドクロマークなどを包装にプリントし、その薬を使用した場合、車の運転を認めないという表示をしています。厚生労働省には、すみやかにこの問題に対処していただきたい。

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