夜回り先生 水谷 修
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読書三昧 ⑥

「古事記」現代語訳 福永武彦訳 河出文庫

 

子どもたち、私たち、ヒトは、いつ動物からヒトとなったのでしょう。君たちは、社会科の授業で、こう習ったはずです。道具の使用。火の使用。直立歩行、そしてことばの使用、これが、私たちヒトと動物を分けるものだと。私も、これは否定しません。でも、これでは、説明不足だと考えています。

私は、神話の誕生をもって、ヒトの、そして、それぞれの地域に根ざして生きる民族の発祥となったと考えるべきだと思います。神話の中には、それが世界のどの地域のどの民族のものであっても、世界やヒトの成り立ちについての説明があります。生や死についての説明があります。そして、その地の成り立ちや歴史、文化についての説明があります。

子どもたち、君たちの中で、たぶん「旧約聖書」や「ギリシア神話」などの神話を一度でも読んだことのある人は、「水谷先生、あんなの嘘だよ。嵐は、神様が怒っているから、違うよ。単なる地球上の気圧の変化の問題だよ。神様が、私たちの日本という島国を矛で海をかき回して作った。そんな大きい矛はどこにあるの」、そう言うかもしれません。よくわかります。無理もありません。でも、忘れないでください。そういう君たちは、神話が生まれた数千年後の今を、人類が積み重ねてきた、一番新しい知識の上で生きているのです。

かつて、古代ギリシアの哲学者アリストテレスは、こういいました。「神話の中にも、学問はある。なぜなら、その中にはなぜという問があるから」私も、そう思います。なぜこの国はできたのか。なぜ、嵐が起きるのか。人は死ぬとどうなるのか。人は、どう生きるべきなのか。私たちにとって、考えなくてはいけない根源的な問を、彼らなりの限られた知識の中で必死に考え、そして説明しています。神という絶対的な存在を使って。私は、ここで、ヒトが、ヒトとして始まったと考えています。君たちは、どう思いますか。

「古事記」、これは、私たちの日本の神話です。この国に生きた人たちが、考えつぎ、語り継いだ、君たちの住むこの国の、またこの国に生きた人たちの、民族としての自己同一性、そして文化の一貫性の根源にある神話です。現代を生きる君たちから見たら、嘘ばっかりの本かもしれません。でも、君たちが今住む地域や、修学旅行や家族旅行で行く地域のいろいろな歴史的秘密やあっと驚くような知識が、ちりばめられています。この本を読むことを通して、きっと君たちのこの国に対する見方が、広がります。