夜回り先生 水谷 修
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Osamu Mizutani Official BLOG

一通のメール

私は、数年前、ある大学の大学祭で講演をしました。今回は、そこで出会った、一人の大学生について書きます。

私が、講演のために大学の正門をくぐると、大学祭の実行委員会の学生たちが、みんなで並び、出迎えてくれました。私は、その中の、一人の男子学生に、すぐに目が行きました。彼の顔の三分の一は、大きな青黒い痣、からだも小さく、足にも障がいがありました。彼は、ひときわ大きい声で、「水谷先生、ようこそ、うちの大学に来て下さいました。私が、先生の担当です。よろしくお願いいたします」あいさつをしてくれました。私が、「年寄りじゃないから、自分のカバンは自分で」と言っても、「私の仕事です」と、重いカバンを、控え室まで運んでくれました。その午後は、彼は、私のそばで、私に不自由がないように、誠心誠意働いてくれました。その日の講演後は、実行委員会の学生たちと、小さなパーティーをしました。空いている教室で、ジュースやお茶で乾杯、そして、お菓子を食べながら二時間近く語り合いました。その時、あの彼が話してくれたことに、私は、深く感動し、反省させられました。

彼は、乾杯の後、話し始めました。

「水谷先生、今日は素晴らしい講演をありがとうございました。少し、私のことを話させて下さい。私は、生まれつき、このからだとこの顔という障がいを持っていました。小学校や中学校では、ひどいいじめにあい、死を考えたこともあります。それでも、生き残れたのは、私をいつも優しく守ってくれた両親のおかげです。それでも、高校には進学せず、家で引きこもりの日々を過ごしていました。こんなからだで私を産んだ母を憎み、暴れ回っていました。そんな私に、父が一冊の本を渡してくれました。それが、先生の本「夜回り先生」でした。私は、泣きました。私より、はるかにつらい子どもたちが、こんなにいたんだ。自分は、こんな恵まれた環境にいたのに、何ていい加減な人生を生きているのかと。それからは、先生になって、水谷先生のように、子どもたちを助けたい。そう思って必死に勉強しました。そして、この大学に。先生、ここにいるみんなは、私の魂の友です。私にこう言ってくれました。「君の、そのからだや顔は、君の個性なんだ。自信を持て。君を見て、哀れんだり嫌ったりする人間がいたら、実は、そいつが哀しい哀れな奴なんだ。先生、きっと、私のこの個性で救われる子どもたち、たくさんいます。そんな先生になります」

みんなで、目から汗を少し流しました。

 

実は、昨日、彼からのメールが届きました。彼は、今小学校で教員をしています。そこには、こう書かれていました。

「水谷先生、教員になってはじめて卒業学年を担当し、無事に卒業式を迎えることができました。この小学校に赴任して4年。いろいろなことがありました。私の姿や顔を見て、泣いてしまう低学年の子どもたちもいました。私を避ける子どもたちもいました。たくさんつらいことがありました。でも、そんなときは、いつも先生の本を読んで自分を励ましてきました。また、大学時代のあの仲間たちに支えてもらいました。でも、今は、最高の幸せの中にいます。私のできない仕事を手伝ってくれる先生がた、笑顔で先生おはようと毎朝声をかけてくれる子どもたち。私が背が低くて、黒板の上の方まで手が届かないことに気づいて、あるお父さんは、わざわざ教壇を作ってプレゼントしてくれました。そして、無事に子どもたちを卒業させることができました。今回の状況ですから、保護者のいないさみしい卒業式でしたが、そのあと教室で、子どもたちにはじめて自分が小学校時代に受けたいじめについて話しました。みんなが泣きながら話を聞いてくれました。きっとこの子たちは、だれかを虐めることなどせず、虐められている人を見たら助けることのできる子どもたちに育った。私は、そう思いました。4月からは、新しい小学校に異動です。新しい学校でもきっといろいろなことがあると思います。でも、私は大丈夫です。私は、夜回り先生から、卒業できたようです。長い間ありがとうございました」

私は、すぐにメールを返しました。

「ありがとう」